子どもと一緒に楽しめるTRPGシナリオ、いくつ作れる? ―河合隼雄『物語とふしぎ』をガイド役に

冒険企画局『ご近所メルヒェンRPG ピーカーブー』(2008年)や、今年の1月頃に公開された『冒険王道』を見て、オールドなTRPGファンの中には「よーしパパ、子供がうまれたら一緒にTRPGしちゃうぞー」って思い始めた人もいるかもしれません。とりあえずここに一人います。

しかし子供と遊ぶ以上、「クラスメイトのツンデレヒロインが」とか「幼馴染を助けるために山から」といったシナリオを作るのもどうなんよって感じですね。TRPGの基本は”楽しませる”ですもんね。かといって、わかりやすいファンタジーで悪者を退治するシナリオ・・・の続きはどうしよう?、戦うばっかりじゃ単純すぎじゃないかしら、とか。子供が楽しめるシナリオっていくつ思いつけますか? という時に、良さそうな本があったので紹介してみます。

物語の役割と、子どもの内的世界

『物語とふしぎ』は、河合隼雄による児童文学ガイド本です。以下、第1章を要約してみると

  • 「ふしぎ」な事に対してその人なりに納得できる答えを出した時、それは「外界の事象」と「その人だけの内的な願望」が一つになった”物語”に結晶される。それは時に人を支えるものになる。
  • とりわけ子どもは「ふしぎ」に満ちている。ふしぎの反対は「当たり前」で、大人はだいたい当たり前の世界に生きている。
  • 昔は”物語”を部族や民族といった集団で共有していたが、現在のような個人主義の世界に生きる人には、個人にふさわしい”物語”を持つ、あるいは作り出す必要があるだろう。
  • しかし、誰もがそのような物語を作り出す才能があるわけではない。他人のつくったもののなかから見つけ出すことをしなくてはならない。それは古い神話かもしれないし、児童文学かもしれない。
  • 自分の人生を豊かで意味のあるものにするために、いろいろな「ふしぎ」についての物語を知っておく事が役立つのではなかろうか。

で、第2章〜第5章まで、自然や人物、町、時間といったテーマ別に、児童文学の紹介がはじまります。単に作品を紹介するだけでなく、子どもの発達についてのお話や子どもを見守るべき大人に求められる態度をおりまぜているのが面白く、おまけに文章からは著者の優しさがにじみ出ててなんとも読後感の良い本です。ほんとに、ここで紹介されてる全作品を読みたくなります。もちろんこのガイドを見ながら。

子どもとTRPGを遊ぶ時のお供に

じゃ具体的に、この本がどんな風に役に立ちそうかというと

1. 共通の話題づくりのために

TRPGは、共通の話題、前提知識、ベースの世界観・・・といったものがあった方がずっと遊びやすいです。児童文学を読む事は、飽きずに(種類たくさん)、子どもも大人も一緒に楽しめて、図書館でも見つけやすいという素敵な題材です。さらに、本を好きになればTRPGもより一層楽しめるようになるわけでちょう好循環が期待できます。

2. シナリオのネタ探しに

この本で紹介されてる作品はいわゆる古典名作ばかりです。(『ホビットの冒険』や『ゲド戦記』も出てきます!) 時間にさらされて生き残ってきた猛者ですから、どこをつまんでも楽しめるネタが出てくるでしょうー。ネタをピックアップして膨らませても良いし、あの本のキャラクターとこの本の設定と、その本の悪役・トラブルを抽出してこねくり回せば、それっぽいシナリオを作れそうです。

(おまけ)大人の心構えを知るために

TRPGの役に立つ、というわけではありませんが、子どもの自然な学習欲や好奇心を邪魔しないように「大人は見守りつつあんまり甘やかさずに・・・」といった提言が散りばめられています。また、子どもが色んなことを知る過程で、「大人には思いもつかない理解の仕方をする場合がある」ケースの解説もあります。子供を理解しつつ、同時に自分の過去やこれからに思いを馳せるのも良いと思います。


とか言ってきましたが。
子供とゲームをする際、もしも「劣った相手につきあってあげなきゃ・気を使ってあげなきゃ」としか思えないのであれば、そりゃ遊ぶの止めたほうが良いだろうと思います。あるいは毎日忙しくて「遊ばなければいけない」と思っている時とか、心に余裕のないときとか。そういう時に、この『物語とふしぎ』で楽しく遊ぶ準備を・・・「ふしぎ」なことにときめいたり思い出したり、紹介されてる本に没頭したりして、本当はそういう使い方するのが一番良いのかもしれないと思います。