本当は死と隣り合わせだった『アグリコラ』

1670年頃の中央ヨーロッパ。1348年に猛威を振るったペストは収まりました。人々の生活は再び命を吹き返してきました。人々は自身の小屋を建設し改築していきます。畑を耕し、時期が来たら収穫しなければなりません。前年までの飢饉で人々はよく肉を食べるようになりました。(この習慣は現在にいたるまで続いています。)
アグリコラ』ルール1p

なんだか珍しく、年代や場所まで書かれていて面白いなーと思いました。17世紀というと私が思い出すのは「バロック美術まっさかり!」。・・・あとは、その周辺のルネサンス(14〜15世紀)、大航海時代(15〜16世紀)、宗教改革(16世紀)、フランス革命(18世紀)、産業革命(18世紀)・・・ホントに17世紀って何があったっけ?てところからスタート。

アグリコラ』夫婦が開拓する農地とは、どんな土地だったのか?

とりあえず「17世紀」を軸にヨーロッパ史を調べると、キーワードが「17世紀の危機」。いろいろ悪条件が重なってふんだりけったりの時代です。

  • ペストの流行で「人口減少」*1
  • 16世紀〜17世紀にかけてヨーロッパ中でいろいろ戦争があって「荒廃しまくり」*2
  • 中世は温暖だった気候が、近世では寒冷化し「飢饉発生」*3

つまり『アグリコラ』の農地とは、(『カタン』のような無人島と違って)荒廃した土地だったんですねー。土を掘れば何か出てくるかもしれないし、いつまた争いが起こるか分からない。天候は不順。食糧確保が大事(飢饉の心配)ってとこがゲームと歴史で合致してるとか、なんともいえない。しかもペストは、1679年にウィーンで流行した記録があります。この『アグリコラ』夫婦はどこに住んでるのか思わず心配になりますなあ。

飢饉が理由で肉を食べるようになった?

それから、ルール前文で一番びっくりしたのがコレ。ヨーロッパの人ってそれ以前から肉食なのかと思ってました。調べてみると、どうも中世の頃から肉の消費量があがったっぽく、前文の言う「前年までの飢饉」がいつを指してるん?って感じですけど。


ヨーロッパでの肉の消費について、人口増減の点から解説している本がありました。南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか』(p20-21)から関係のあるとこをまとめてみます。

  • 中世に確立したヨーロッパ式の農業とは、「麦作+牧畜でワンセット」だった。ヨーロッパでは麦が生産されるが、麦は収穫率が低く連作できないという弱点があるため、休耕地を作り牧畜することで補完しなければならない。
  • このヨーロッパ式農業での穀物栽培と牧畜とのバランスは、人口の趨勢によって変化する。理論的には、人口が過密になり多くの食料が必要になると穀物の栽培面積が拡大し(単位面積あたりの人口扶養能力=穀物栽培>牧畜のため)、逆に人口が少ない時期は牧畜の方へ比重がむくこととなる。
  • 労働コストの面から考えても、人手の必要な穀物生産は、労働コストが安くなる過剰人口の時期が有利。逆に、広大な土地が必要だが人手はそれほどかからない牧畜は、労働コストの高い人口減少期に有利になる。

確かに、『アグリコラ』のルールp3にも”畑作は骨が折れるもので、いくつもの手間と時間がかかります”ってありますね!


また、同書では肉食がはじまったのは中世末期から、つまりペスト流行で人口が激減した頃からだそうです。それまでの中世では、(特権層を除き)日常の食事というと麦と野菜の「粥」だったようです。(古代ローマ的な伝統なんでしょか。) 以降16世紀頃から徐々に人口が増え始め、再びバランスは「牧畜<穀物生産」となり肉消費が低下。ただ、人口増加に食糧生産がおっつかずドイツでは乞食、放浪、追剥などをとりしまる法令が多く発令されたそうです。

食糧が不足したら”物乞いカード”なのですね・・・!


ただ17世紀には人口増加が停滞・減少しはじめ、18世紀に再び増加に転じます。ということは、『アグリコラ』の舞台である17世紀は、穀物と牧畜バランスがまた変化してたかもしれませんね。さて、じゃあその牧畜でどんな動物を飼育していたのか、ブリュノ・ロリウー『食の生活史』(p81)によると(この本で扱ってるのは中世の食卓ですけど)、牛・豚・羊ないし山羊が肉食の基本だったそうです。

アグリコラ』の黒い動物コマって、やっぱ”豚”なんじゃないの・・・!?

日本史ゲームが出たら、ぜひ解説文もセットで

というわけで、『アグリコラ』の背景世界についての調べ事でした。ドイツのゲームって歴史をネタにしたゲームが結構ありますよね。古代ローマ関係だと私もニヨニヨしながら遊んだりしますが(『フォーラム・ロマナム』に付属してる、ゲーム盤の解説文とか面白いです!)、それ以外の時代になると結構さっぱりだたりするので面白かったです( ´∀`)

日本でも、もしも「日本史をネタにしたゲームが海外で発売される」時があれば、ぜひ解説書とか作ると良いと思いますー。(まさかたとえ外国の人でも『くにとりっ!』を本気にする人はいないでしょうけどねー・・・。)

*1:ヨーロッパでの大規模な流行は前文にも書かれているとおり1348〜50年頃。でもその後もたびたび都市単位で発生の記録があり、17世紀だと1629年ミラノで発生、1665-66年ロンドンで大流行、1679年ウィーンで発生など

*2:フランス「ユグノー戦争」(1562-1598年)、オランダ「独立戦争」(1568-1648年)、ドイツ「三十年戦争」(1618-1648年)、イギリス「ピューリタン革命」と続く内乱(1638-1660年)。

*3:特に16世紀後半からの約300年間は「小氷河期」と呼ばれる。(南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか』p26)