『パスティーシュ』はxxするゲームです。



私は『パスティーシュ』というボードゲームが好きですが、その説明文やレビューを読んでると「あ、頑張ってる」と思うことがたびたびです。パスティーシュという言葉があんま一般的でないせいか、パスティーシュという言葉を使わずにそれが何であるか説明しようとしている感じがひしひしと伝わってきます。

パスティーシュ』の芸術姓

芸術や学習においては「真似る」事は決して悪意を持つものではないのですが、「パクリ」という言葉になると一気になんやらいけない事な雰囲気になります。言葉ひとつでイメージがこんだけ変わるわけで。

美術スキーとしては「原語のもつ意味」や「美術という分野における文脈(使われ方)」というものを掘り下げておきたいなーと思いました。

でも難しかったんよ

なんともアレなことに、パスティーシュっておフランス語は最寄りの図書館で百科事典・仏日辞典・美術関係の辞典や本をひいた挙句、レファレンスサービス利用してもなかなか満足いく解説・作例が出てきやがらないのですよ。

例えばWikipediaひくと「作風の模倣のこと」てあります。まあ辞典ひいても似たりよったりで、一応美術系の辞典で「引用のモザイク」といった意味を見つけましたが、それでもちょっと言葉が少なすぎませんかねえ。というわけで目標を下げまして。

  • パスティーシュは芸術の表現手法のひとつである事を知ってもらって(例えば、贋作や盗作って言葉を当てはめるのは違うなーという感じを持ってもらう)、あと「パスティーシュってこんな感じ」というだいたいのイメージを持ってもらえれば嬉しい。

定義や解説未満の目標ですがまあそんな感じで、正確さよりは分かりやすさを重視して書いてみます。

もとのルールには「パスティーシュ」の説明があった

BoardGameGeekでアップされてたドイツ語や英語のルールを見てみると、「パスティーシュという言葉は」という説明があったのですね。英語版ルールの一部(冒頭の説明文)をExcite翻訳してみると

The word pastice is used in the fields of literature and art to refer to something that is an imitation or recreation of an earlier work,often as a respectful homage or tribute to the original.

pasticeという単語は、以前の仕事のイミテーションかレクリエーションである何かについて言及するのに文学と芸術の分野で使用されます、しばしばオリジナルへの礼儀正しい尊敬か捧げ物として。

レクリエーションってあたりに腰を抜かしますが、ざっくり意味をつかむと、パスティーシュは主に文学や美術で使われてて、先行作品をあれこれする手法で、尊敬を込めた意味で使われる言葉だなってな事がなんとなく分かります。

清水義範の本から手がかりをつかむ

もうちょい、パスティーシュに対するイメージをくっきりさせるために、”パスティーシュ作家”清水義範の文章を例に挙げてみます。これね、ちょっと本が好きな人なら「ああこういう展開になると思った」って思ったはずです。それくらい有名だし、唯一の呼称です。
ゲームが美術をテーマにしているんだからと海外の画家・作品をあげるより、また文学は文学でも芥川龍之介や過去の歌人を挙げるより、清水義範のほうが断然面白くて分かりやすくて、おまけに著者自ら「パスティーシュとは」を解説して、執筆姿勢まで語ってくれてるんですから、「正確さ<分かりやすさ」を重視する今回の記事には大変都合が良いんです。

(文体)模倣はこんなに面白い!

清水義範はちょうたくさん書いてる人ですが、これぞスタンダードど真ん中パスティーシュっぽい文章といえば、これでしょう。清水義範ザ・対決』の「シェイクスピアvs近松門左衛門」より。近松門左衛門の文体で「ハムレット」をやっちゃいます。

生きて因業なすべきか、死んでこの身を捨つるかや、それが思案のしどころぞ

もちろん、これは例の「To be, or not to be: that is the question.」ですよ。ちょうクール!この調子で5ページ分、読んでると日本語のリズムや言葉遣いにうっとりします。逆にシェイクスピアの文体で『心中天綱島』を書いてるし、司馬遼太郎の文体で『猿蟹合戦』を書いたりもしてます。憲法前文を長島茂雄の口調で書くのはわかりやすくて素敵だと思います(´∀`)

パスティーシュ」解説

早わかり世界の文学―パスティーシュ読書術』という本で、清水義範パスティーシュについて説明している箇所があります。作り手側の思いやポリシーが入ってくるので他の作家・作品についても同じとは言えませんが、その分、辞典の説明よりずっと理解しやすいと思います。

つまりパスティーシュとは、意図的にやる既存のものの引用であり、引用によって、それまでとはまるで違う角度から対象物に光をあて、まったく新しくて、意外な理解をなるほど感のうちにもたらせてくれるものなのだ。パスティーシュを読むのにはそういう快感がある。 (p55, 「補講1 パスティーシュの正体は何か」)

だから、一番俗っぽく、自分でもそういうとがっかりしてしまうんですが、一番つまらなくいうと、文章の物まねをするんですよ。文章の物まねが上手なんです。 (p155, 「講義3 作文教室と創作方法」)

物事をあらゆる角度から見てみて、裏から見ればこういうことじゃないかと発見し、場違いな文体で説明する。そういうユーモア文学を私はめざしているのだ。 (p191, 「補講3 ユーモア文学論」

パスティーシュは、まず、贋作(騙すためにそっくりのものを作る)や盗作(他人の業績を自分のものと言い張る)といった悪意とは無縁です。

昔の日本にも「本歌取り」という言葉があったり、その他「パロディ」「オマージュ」、もっと分かりやすく「xx模写」など色々な言葉で表現されるように、(それだけたくさん言葉があるということはつまり)「模倣」は昔から古今東西を問わず芸として、表現手法として評価されているわけです。そして、『パスティーシュ』も、聞き馴染みがないだけでそういうものを指す言葉です。

(ちなみに、『パスティーシュ読書術』の中でパロディとパスティーシュは何が違うのか、を清水義範が考えてるとこもあるので興味があればどぞー。)

2012.4.7追記: 「美術における模倣」の参考に。

模倣は、テクニックの学習のための一般的な方法であると共に、一つの芸術作品でもあるというのが、この記事でよく分かります。
芸術家と模写 : ルネサンスのセレブたち

ボードゲームパスティーシュ』とは

せっかくなので『パスティーシュ』を頑張って説明してみようと思います。
パスティーシュ』のパスティーシュ要素は

  • プレイすることによって画家の創作活動(特に色使い)を模倣し、名画や画家、美術史など芸術に親しもうというとこ。
  • 多数の絵画を引用しているとこ。

よくある「(ゲーム名)はxxをするゲームです。」のフォーマットにまとめると

  • パスティーシュ』は、有名な画家の創作活動を絵の具の混合に注目して模倣するゲームです

もうちょいくだけて

こんな感じ・・・?うーん、でも、色を混ぜるって要素がすっぽり抜け落ちるのはもったいないとこですね。もっとこう、うまい表現できる誰か、誰かはいませんか。